いのちの洗濯

—金井重さん、ブータンチモン村にて

高橋 あい

 

 

 

宿からさんざん歩いた頃に

一面真っ白なコットン畑に辿り着いてね

 

全景が静かですよ

山山山ですよ

そして、真っ白い花を摘むと

ふわっふわっなのよ

すばらしいのよ

 

コットン畑の近くに大きな岩があってね

そこに腰をかけて太陽を浴びたの 困ったわねー

生命が三年延びましたよ

金井重さん(88歳)は、20151110日から18日まで、ナマケモノ倶楽部のツアーに参加した。ナマケモノ事務局の馬場さんと鍛冶屋さん母娘(40歳代と19)、そして重さんの4名での旅。飛行時間に加え、インド国境近くから今回の目的地であるチモン村までの距離も長い。78日の旅程ではあるが、目的地であるチモン村での宿泊はわずか3泊。決して十分な時間とは言えない。

 

「生命のせんたくをしてきたのよ」と満面の笑みで語る重さん。「生命のせんたく」と聞けば「選択」を思い浮かべるのは私だけではないだろう。けれど、重さんの言う「せんたく」は「洗濯」だった。帰国してから初めて会う重さんの表情は、実にさっぱりしていた。

 

 

今回、重さんがブータンへ出発する一週間前、私は岐阜県郡上八幡にて、ナマケモノ倶楽部世話役で文化人類学者の辻信一先生のイベントに参加した。112日、スローシネマの最新作上映会と辻先生のトークイベント。そのトークの中で辻先生はブータンで取り組んでいるオーガニックコットンについて触れられた。

私は、ブータンから帰国した重さんを待ち構え、「ブータンについて原稿」をお願いした。

彼女はそのとき、六車由美さんが聞き書きでまとめた「介護民族学へようこそ!」を読んでいたので「聞き書きでいきましょう」と提案 、私は賛同した。

 

重さんのナマケモノ倶楽部でのブータンへの旅は二回目となる。

今回は、オーガニックの取り組みが進んだコットン畑で、「生命の洗濯をしてきた」。国後の重さんの幸福量は、確実たされていた。「いままで、Slow is beautifulということは頭では十分にわかっていたの。けれど、今回は違ったの。」

ナマケモノ倶楽部の会員である重さんは、世界のエコロジーについて常日頃接している。そんな重さんが、「今までのことは頭でわかっていただけ」というのだ。

今回の旅で重さんは、魂ごと自然を感じ、自然の中で暮らすことの豊かさを体感した。そして、生命の洗濯をしてきたと同時に、チモン村に暮らす人々が自然の中で活き活きしている姿に、人間の生まれ育ち老いる摂理を実感したのでしょう。

自称、山姥(やまんば)になれない町姥(まちんば)だという重さん。経済オンリーのグローバリズムが広がる中で、大自然に包まれ、自然に戻った重さんは、 自宅に戻っても魂はチモン村にいるようだった。

 

 

秋天に われら選ばれ コットン畑

白いふわふわの 綿花つみにけり  

 

 

 

追記:重さんは、その後、聞き書きの「介護民族学へようこそ!」の作者・六車さんが勤務する「すまいるほーむ」を訪ね、一日遊ばせて頂いたそうです。そして、そこでも「生命の洗濯」をして、帰ってきました。

重さんは、人生のラストステージ”遊行期”の今、一日一日が大切と痛感しているとのことです。

 

 

写真提供:ナマケモノ倶楽部

 

 

 

高橋 あい/たかはし あい

東京自由大学セカンドステージメンバー。写真家。多摩美術大学情報デザイン学科卒業。東京芸術大学修士課程修了。沖縄大学地域研究所特別所員。ポーラ美術振興財団の助成を受け、2012年9月から1年間、アメリカ合衆国・インディアナ大学にて写真作品制作と研究を行い、2013年10月に帰国。現在は飛騨古川を拠点とし、株式会社美ら地球に勤務。東京自由大学では、主に 「大重潤一郎監督連続上映会」の企画を行っている。また、このウェブマガジンの発案者である。ホームページ