春を迎える生き物たち

海津 研

 

 

 

つくし、というと僕の住む辺りでは3月下旬頃によく見られるのだけど、何年か前に1月頃にもう土から頭を出しているのを見つけた。それから春のつくしの成長を見守るのが楽しみになっているのだが、今年はお正月にはすでに頭を出しているものを見た。
同じくお正月ごろには、黄色く透き通った蝋梅の花が開きはじめ、冷たい空気に春の香りが差し込んで来る。続いて、1月下旬から2月にかけて、紅梅、白梅の順に開く梅の花では、暖かな日ざしの中ミツバチが蜜を集めている。
その頃になると、田んぼの周りの小さな池に、ニホンアカガエルというカエルが生んだ卵の塊が浮かんでいるのが見つかる。このカエルは、とりわけ春の早くに産卵をするもので、その後冬眠をし直すそうだ。
日向には、水仙の花やオオイヌノフグリの青くて小さな花が咲き始めると、街角の花壇では沈丁花の香りが待ち遠しくなる。今年初めてその花が開いたのを見たのが2月半ば。
2月下旬、冬芽からこぼれた新しい木の芽に、早速アブラムシが留まっているのを見る。フキノトウも見かけるようになり、気の早いツクシもすこしずつ背を伸ばし始める。
3月に入ると、林のふちの陽の当たる所に生えたスミレが花を開き始める。街角ではハクモクレンがモコモコのコートのような蕾を脱ぎ捨てるのを見かけ、ユキヤナギの白い花もポツポツと咲き始める。空からひばりの声が聞こえ始めると、こんどはヒキガエルがいつ卵を産みに出て来るかが気になり始める。年によっては2月から見られる事もあったのだけど、今年は3月半ばだった。そして3月下旬には桜がいつ開くかで世の中がそわそわし始め、ツバメが飛んでくるのをひそかに心待ちにする。つくしもすっかり背が伸び揃い、緑色のスギナがその周りを覆うように伸び始めている・・
こんなふうに冬から春に変わる季節を、様々な生き物と共に迎えられるのが楽しいのは、日々さまざまな人が作った情報にさらされる中で、自分の目で直接見る事ができる「現実」がここにあると思えるからなのかも知れないと思う。年によって時期がずれることもあるだろうし、住む地域によってや人によっても注目する所は異なるだろうけれど、春を迎える、ということに実にたくさんの出来事が含まれていることにあらためて驚き、それが毎年間違わずに繰り返されることに感動するのではないだろうか。そうして触れたものたちが、「自分」の一部になっていく気がする。

 

 

 

海津 研 / かいづ けん

美術作家。千葉県在住。東京芸術大学デザイン科卒業。テレビ東京「たけしの誰でもピカソ」アートバトルにて第7代グランドチャンピオン。沖縄のひめゆり平和祈念資料館製作の「アニメひめゆり」原画を担当。主な作品に、宮沢賢治の「よだかの星」を原作としたアニメーション「よだか」などがあります。最近は「よたか堂」の屋号で一箱古本市に時々参加しています。