「たくさんのワン」

海津 研

 

 

 

今年はイヌ年ということで、様々なイヌの品種(犬種)を調べて描いてみました。中央には野生のイヌ、オオカミを配置して。昨年は鳥年にちなんで「鳥類」という大きなカテゴリーの中の様々な鳥を描いたのですが、ほ乳類のイヌ科の中でも、飼い犬という狭いカテゴリーの中に、これだけ多様な色と形を持った生き物がいるのに驚かされます。これらのイヌはみなそれぞれに、人間との暮らしの中で狩猟犬、牧羊犬、番犬などさまざまに期待される役割によって、長い時間をかけて改良されて来たものです。また、そうして多様化したイヌの姿に審美的な価値をおく人々によっても、洗練や愛らしさを加えられて来ました。

 

この絵に描きこんだ犬種の名を左上から順にあげてくと、/ボルゾイ/グレート・ピレニーズ/ダルメシアン/セント・バーナード/ボクサー/グレート・デン/アフガンハウンド/イタリアンハウンド/ジャーマン・シェパード・ドッグ/イングリッシュ・コッカー・スパニエル/プードル/ドーベルマン/オールド・イングリッシュ・シープドック/シベリアン・ハスキー/ブルドック/(オオカミ)/秋田/イングリッシュ・ポインター/ラブラドール・レトリーバー/シェットランド・シープドック/チャウチャウ/ウェルシュ・コーギー・ペンブローグ/ブルテリア/ビーグル/柴/イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル/ポメラニアン/ノーフォーク・テリア/ダンディ・ディンモント・テリア/キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル/チワワ/日本スピッツ/マルチーズ/パグ/ヨークシャー・テリア/

・・と、この名前ひとつひとつに、長い人とイヌとの付き合いの歴史が込められているのですが、これら「純血」のイヌだけでなく、世の中にはたくさんの雑種のイヌがいることも良く知られています。そして、どんな犬種であっても、それは飼い主にとってかけがえのない一匹のイヌであろうと思うのです。一匹のイヌと心を通わせ、その死を人間とおなじように悼む、そのきずなが長い歴史を経て、私たちに「ワン」と呼びかけるこの動物を作り上げて来たのでしょうから。

 

自分ではイヌは飼ったことはないのですが、この絵を描いてから、町を散歩するイヌを見る目が、少し変わりました。

 

 

<了>

 

 

海津 研 / かいづ けん

美術作家。千葉県在住。東京芸術大学デザイン科卒業。テレビ東京「たけしの誰でもピカソ」アートバトルにて第7代グランドチャンピオン。沖縄のひめゆり平和祈念資料館製作の「アニメひめゆり」原画を担当。主な作品に、宮沢賢治の「よだかの星」を原作としたアニメーション「よだか」などがあります。最近は「よたか堂」の屋号で一箱古本市に時々参加しています。