「星を見ること」
海津研
東京の近郊で育った自分にとって、「満天の星空」というのはほとんど絵本の中だけの世界のようでした。そんな環境でも、空気が比較的澄んでいる冬の夜空に輝くオリオン座はその特徴的な形で、その下に輝くおおいぬ座の一等星、シリウスはその明るさで、親しみ深い存在でした。
の星の光が、何年、何百、何万年もの時間をかけて地球に届くことを知ったのは、いつの頃だったでしょうか。今、見えている星の光が、自分の生まれる前や、さらには人間がこの地球に存在するよりも前に、その星を旅立ったものかも知れないということ。それは、途方も無い宇宙の広さを伝えてくれるのと同時に、ものが目に見えている、ということの不思議さを教えてくれます。
私たちは、ふだん自分の目の前に見えてるものを、自分と同じ時間、同じ空間に存在しているものととらえて暮らしていると思いますが、実際には、その物との距離が遠い程、その物からの光はほんのちょっとだけ遅れて目に届いていることになります。今、夜空に光って「見えている」星が、もしかしたら、今この瞬間には、もうそこにはないかも知れないということ、そしてそれは確かめようもないということ。それは、私たちが「今、生きている」と感じているこの世界も、夜空に見えている星座のように、世界のある断片の、見かけの上の姿でしかないのではないか、と思わせてくれるような気がします。

 

 

海津 研 / かいづ けん

美術作家。千葉県在住。東京芸術大学デザイン科卒業。テレビ東京「たけしの誰でもピカソ」アートバトルにて第7代グランドチャンピオン。沖縄のひめゆり平和祈念資料館製作の「アニメひめゆり」原画を担当。主な作品に、宮沢賢治の「よだかの星」を原作としたアニメーション「よだか」などがあります。最近は「よたか堂」の屋号で一箱古本市に時々参加しています。