アースフリーグリーン革命あるいは生態智を求めて その4   

鎌田東二

 

 

 

8、二人の名学長――初代横尾龍彦学長、第二代海野和三郎学長

 

 東京自由大学は、「学長」に恵まれた。今も恵まれている。実に。初代は設立発起人の一人、横尾龍彦氏。横尾氏はアーティストである。だから、東京自由大学の初期の活動には毎月のように、横尾学長自らの指導による「瞑想絵画」があった。横尾学長の描画法は、「自我が画くのではない。風が画く。水が画く。」というものであった。実際、それを実修してみると、そのとおり、わたしが画くのではく、風や水が画いてくれるのだった。おのずと。自然に。それは、自然の流れがわたしを媒介にして宇宙的な広がりと模様を生み出していく過程に立ち会うワザであった。内宇宙の形成というか。間宇宙の形成というか。

第二代学長は、天文学者。東京大学教授を30年近く勤め、自分より優れた弟子(天文学者)を40人も育てた」と豪語する海野和三郎氏。

海野学長の研究者の育て方は、「何も命令しない。好きなことをやらせておく。学生がやることを面白がる。すると、自然に育った」というものであった。これもまた、自然生成力、自然成長力、むすびのちからのたまものだ。自然宇宙の形成。

二人の名学長は、一種の「宇宙人」だ。もちろん、「バク転神道ソングライター」の鎌田東二も正真正銘の宇宙人である。小さい頃から、わたしは宇宙人だと思ってきたが、最近、いよいよ、その感を深くしている。「神道ソングライター」であるわたしの宇宙は、「感宇宙」かな?

 

ともあれ、その二人の名学長が、2013年10月27日の夜、久しぶりに東京自由大学のアートフェスティバルで遭遇したのだ。そして、お二人を「ステージ」(?)に上げて、お話をうかがった。よかった。その時間が。その空間が。二人の宇宙人が自由自在に自分の宇宙を遊泳しているさまを垣間見ることができて。感慨深いものがあった。

 

 

9、NPO法人東京自由大学第1回アートフェスティバル開催

 

2013年10月15日(金)・26日(土)・27日(日)、3日間連続で、NPO法人東京自由大学のアートフェスティバルを行なった。初代横尾龍彦学長の時代に中野ゼロホールを借りて、絵の展示やパフォーマンスやシンポジウムなど、アートフェスティバル的なことは何度かやったが、「アートフェスティバル」と名乗ったかどうか。

だから、今回が、「第1回アートフェスティバル」になるのかもしれない。まず、会員と関係者の展示で、東京自由大学ギャラリーがオープン。その一つひとつの作品が愛らしく、いのちを発信している。一人一作品の出品という規定があるので、わたしも一つ2枚組の1枚合成写真を出品。タイトルは、

 

  Constellation

  月は鳥居を見ているか、

  鳥居は月を見ているか?

  海原と天原を往く月鳥居

 

この作品がどんな「感銘」を与えたか?それは鑑賞者にゆだねよう。わたしとしては、東京自由大学の「精神と構造」をその組写真で表わしたつもりだ。

「Constellation 月は鳥居を見ているか、鳥居は月を見ているか? 海原と天原を往く月鳥居」とは、自由大学そのものなのだ、わたしにとっては。わたしの哲学は、あらゆるものは組み合わせである、というものだ。それ一つで力を発揮するものはない。組み合わせによって力を発揮もすれば、力を失いもする。だから、すべての生命と存在の秘密は組み合わせにある、というものだ。それを言葉で表わせば、「Constellation」となり、わたしの撮影した写真では、月とスッポンならぬ「月と鳥居」となる。「月」は自ら光らない。月は太陽によって輝く。そしてその姿を変える。まさに、組合せ・関係性の妙を表わしているのが月である。そして、「鳥居」は、自らを本体としない。御神体や神殿(本殿・拝殿・舞殿)の入口であることを示すばかりだ。それ自体が本体ではなく、本体への出入り口を示すモノ。関係性の初期化。

 

それが、「海原と天原を往く月鳥居」という「星座・配置・布置」なのである。東京自由大学とは、どのような力も借りて、組み合わせて、手作りで、俄か作りで、できる限りの凄いことをやってのけようという、超貧困にして超リッチな集団である。それもみな、「組み合わせ」の力学によって決まる。したがって、「理事長」としてのわたしは、その「Constellation=海原と天原を往く月鳥居」を、いつも、うまく運航しているかどうかを機にかけているだけである。まさしく、「風見鳥」ならぬ、「月見鳥」。

 

初日、大重潤一郎監督の映画上映があった。作品は、「能勢―能勢ナイキ反対住民連絡会議」(1972年製作)。これは、大重監督のラディカルな社会派の一面を余すところなく示す自主映画であった。「能勢」は、当時、「大阪のチベット」とも呼ばれた能勢のミサイル基地建設の反対運動を盛り上げた記録映画だ。そしてこの年、1972年に、大重は、環境問題に取り組んだ記録映画『かたつむりはどこへ行った』(伊丹市)を製作した。これが、地方自治体の反公害映画として高く評価された。『かたつむりはどこへ行った』は、その後、川を源流から下りながら撮影していく表現技法を採る大重映画の原点となった。猪名川の源流から流れ落ちる水が下流に流れていくにつれて汚され、喘息患者が生み出されてくる現代文明社会の問題を美しい風景画のように描いた。この手法は、最新作の「久高オデッセイ」にまで川の流れのように通じていると思う。大重映画はいつもどこでも一貫した流れの中にある。

そして、その後、海野和三郎学長(東京大学名誉教授・天文学者)とマニフェストと米寿祝いと会員たちによる歌声カフェ。

 

2日目の翌26日は、特別企画講座「震災解読事典第4章」。作家の田口ランディさんの「原発といのち」の話と、田口ランディさんの伝承脚色詩「アングリマーラ」の朗読。その音楽を石笛・横笛奏者としてのわたしが担当。田口ランディさんは、言葉の素肌を大切にする人だ。いつも、言葉にまとわりついてくる作為や捏造にとても敏感に反応する。そしてそれをうまく拒否しつつ、隠された心の動きと真実を浮かび上がらせようとする。

田口さんは、そのような手つき、言葉つきを以って、原発と核といのちの成り立ちと本質を深く掘り下げていく丁寧で繊細な話を、誠実に、率直に、語ってくれた。それを通して、ごまかすことのできない人生を、避けることのできない他者と共に、正面から向き合って生き、表現している田口ランディさんの姿勢が鮮明になったと思う。多くの読者が、それも同性の読者が、矛盾を恐れずに見つめ、誠実に取り組む田口さんの姿勢や生き方に共感するのがよくわかった。ランディさんは、ごまかさない!そして、そのランディさんの後、「踊る阿呆に、見る阿呆。同じ阿呆なら、踊らな損損」が身に染み付いたわが神道ソング5曲。「この光を導くものは」「時代」「弁才天讃歌」「銀河鉄道の夜」「永訣の朝」。歌うことは、祈ること。祈ることは、身をさらし、さしだし、ささげること。

 

3日目の27日は、三省祭り「農の恵み~土という幸福」。山尾三省さんと親交があって、日本の自然食・野菜販売運動をリードしていった大友映男さん、高橋秀夫さん、鶴田静さんと座談。

彼らは三省さん同様、三者三様に、既成のシステムからの離脱を恐れず、オルタナティブな生き方を求めて、それぞれの個の特性と霊性に従って冒険的な活動に身を投じて行った先達だった。その三者から語られる力強い経験と知恵に満ちた貴重な珠玉の言葉。

フワフワしたバク転神道ソングライターでありフーテンである我が身に比して、彼らは地に足を着けた農地派だ。そこで、農をめぐる三省さんの古くからの友人である大友さん、高橋さん、鶴田さんの「地に足の着いた話」と、北海道の小樽に住む詩人長屋のり子さんの実妹でなければ語れない超面白い数々のエピソードに対して、フーテン鎌田東二は「地に足の着かないフワフワした無重力司会」に終始したのであった。

だが、「吾思う故に、吾蟻」だよ。人間にとって、地面は土であり、地球であるが、地球にとって「地面」は「天」であり、「フワフワ宇宙」の方ではないか、な!? そこで、フーテンの吾は、「フワフワ宇宙」という地面に足を着けるためにバク転するのであ~~~~~~る!!!比叡山の山頂のつつじヶ丘で。

ともあれ、3日間を通しての少品ではあるが豊かな作品展示。映像、詩、歌、絵、書、写真、劇……。まさに、文字通り、「アートフェスティバル  火を焚きなさい」、そのものであった。

 

「人に笑われるリッパなニンゲンになりたい」フーテンTony Kamata Parisは、実にご満悦に自画自賛したのであった。これまで、東京自由大学は、自由と友愛と各個の霊性の深化を大切に運営してきた。一人ひとりの身心や霊性を深く耕し豊かにする試みを大切にしてきた。そして、星座のようなコンステレーションの組み合わせを大切にしてきた。東京自由大学の「自由」とは、そんな「組み合わせ」、すなわち、コンステレーションの自由なのである。

 

 

 

鎌田 東二/かまた とうじ

1951年徳島県阿南市生まれ。國學院大學文学部哲学科卒業。同大学院文学研究科神道学専攻博士課程単位取得退学。岡山大学大学院医歯学総合研究科社会環境生命科学専攻単位取得退学。武蔵丘短期大学助教授、京都造形芸術大学教授を経て、現在、京都大学こころの未来研究センター教授。NPO法人東京自由大学理事長。文学博士。宗教哲学・民俗学・日本思想史・比較文明学などを専攻。神道ソングライター。神仏習合フリーランス神主。石笛・横笛・法螺貝奏者。著書に『神界のフィールドワーク』(ちくま学芸文庫)『翁童論』(新曜社)4部作、『宗教と霊性』『神と仏の出逢う国』『古事記ワンダーランド』(角川選書)『宮沢賢治「銀河鉄道の夜」精読』(岩波現代文庫)『超訳古事記』(ミシマ社)『神と仏の精神史』『現代神道論霊性と生態智の探究』(春秋社)『「呪い」を解く』(文春文庫)など。鎌田東二オフィシャルサイト