「桜島!まるごと絵本」

さめじま ことえ

 

 

 

20代の勢いで桜島に引っ越してから早いものでまもなく10年になります。私は今、鹿児島市の郊外に、夫と4歳の双子と一緒に暮らしています。去年、夫と一緒に、出版社を立ち上げました。名前は「燦燦舎(さんさんしゃ)」。一緒に立ち上げた、といっても、鹿児島の老舗の出版社に勤めていた夫が独立したので、私自身は出版の仕事ははじめて。一冊の本が出来るのがこんなに大変なものかと驚きながら、日々バタバタと仕事に追われています。会社は、自宅と兼用。築100年を超えるお家を借りて、住みながら部屋の一部を仕事場にしています。出版社といえば東京のオフィス街という常識を覆す、軒下の洗濯物!子どもたちの散らかしたおもちゃ!生活感あふれる家内制手工業です。

去年、桜島の大正噴火100周年に合わせて、燦燦舎はじめての本を出版しました。「桜島!まるごと絵本」。著者は火山学者の福島大輔さんと、なんと私の共著です。おかげさまで、発売1年で3刷りが決定。地方出版社の本としてはなかなかの売れ行きなのです。

『毎日毎日灰が降ります。たけしくんのヘルメットにもざらざらざらざら灰が積もっていきます。
「なんでこんなに灰がふるのけ?桜島なんかきらいだ。」
「じいちゃん、もう灰はいやだ。僕たちはどうしてこんなとこにすんでるのけ?」』

桜島に住む少年の問いに、じいちゃんが、大正時代に起きた大噴火の話をする物語です。しかしこの本、ただの絵本ではありません。後半に、火山博士による解説ページが付き、桜島の成り立ちや噴火の仕組みや自然など、桜島をまるごと知ることができる本なのです。
桜島は噴火や土石流などによる災害と復興を繰り返してきた歴史を持っています。人びとは、家や村を埋め尽くした溶岩の上に展望台を作り、人を呼び、温泉宿を作り、農産物を作り、火山と海と共に暮らしてきました。

絵本は主に鹿児島県内の書店で販売していますが、自分で販売することもあります。出て行くお金の行き先が見えにくい現代の暮らし。自分で作ったものを自分で手渡し、代金をもらう。その喜びは本当に大きいです。「ありがとうございます」と、心の底から言うことが増えました。

先日、小さな男の子が親におねだりして、絵本を買ってくれました。男の子は、両手で本をしっかりと抱きかかえて、堂々と歩いていきました。私は、彼の後ろ姿を見送りながら、この先10年後も20年後も本が彼の傍らにあるのを想像し、一人で勝手に涙ぐみました。

鹿児島に住む子ども達にとって、現実の世界が、必ずしも絵本のように笑顔にあふれているとは限らない。しかし、絵本のふるさとは、いつも温かくあってほしい。その温もりが生きる糧になるかもしれない。

桜島は今日も、火口から大きな噴煙を何度も上げています。日本という火山だらけの土地がわたしたちの生きている場所であり、ふるさとです。この土地で、私たちは暮らし、これからも暮らし、子どもも、そのまた子どもも暮らしていかなければなりません。私も、桜島の先人達に習い、火山に寄り添ってたくましく生きていきます。


本のご注文は燦燦舎HPヘ。http://san-san-sha.com 送料無料でお送りします。

 

 

 

さめしま ことえ

静岡市出身、鹿児島市在住。2007年に東京から桜島に移住、桜島の廃業した温泉ホテルでアートプロジェクトを開催、以後、別府や横浜など、日本各地のアートプロジェクトに携わる。2014年、夫と鹿児島で出版社「燦燦舎(さんさんしゃ)」を立ち上げ「桜島!まるごと絵本」、「ぐるっと一周!鹿児島すごろく」を出版する。