―オムパロス―

桑原 真知子

 

 

 

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勝三さんの背中が 黙々と動いて

それに続く背中が 黙々と動いて

 

竹の先から伸びるロープが石の側面に穿たれた鉄の輪に結ばれ

四つの対面の竹の先から伸びたロープの場所を少しずつ変えながら

竹の張力が 石の重力を破り

やがて石の影が その真下に現れ始める

うぉーっと上がる歓声の中石が中空に 浮き上がり 静止する

オムパロス 宇宙のヘソ

 

 竹に向かい たたずみ

 石に向かい たたずみ

 土に向かい たたずみ

 空に向かい たたずむ

 

人の宙との交信の場に

 

神の息吹の風が吹き込み 土に印す い・の・こ

~いのこ いのこ いのこ餅ついて 繁昌せい 繁昌せい~という子ども達の掛け声が町内を練り歩き、どーんどーんという石を突く音が響くと冬は始まります。

「亥の子」は陰暦十月上の亥の日の亥の刻(午後十時)に餅を食べると万病を除くといい、また猪の多産にかけて子孫繁昌を祝いました。

 

広島の袋町公園の「大いのこ祭り」は、二十数年前に市民の手作りで始まりました。石の作家石丸勝三さんの石と竹のインスタレーションを中心に繰り広げられる、新しい形のお祭り(祈り)+アートです。途中中断された時期もあったものの復活を遂げて、今年は高橋あいさんが旅の途中で寄って下さいました。

 

 

秋には石見美術館であった友人の「お水え」という、異界の儀式の作品を見て来ました。

山口は白鷺の多いところでした。広島から益田へと電車で向かう車窓に広がる稲刈りの風景に、白鷺と彼岸花の朱色が鮮やかでした。

「お水え」は、山と海と川をつないで「お水を点てる」儀式でした。山陰道の湧水から水を汲み、石見の小浜海岸の岩場に作った縁台で鎮守の海にお水を点てて振る舞う。

 

その儀式を映す八ミリ映像では空の水色に海も染まり、空間の揺らぎの中で進行して行く儀式に、縄文にタイムスリップして録ったのではと錯覚させる空間の飛躍がありました。

展示は儀式に使われた石州和紙で作ったカントオイ風の衣・隠岐の黒曜石・石見の土を焼いた水瓶と水椀・藁で作った龍・縁台など。

 

キリーク・サ・サク=鈴の声を聞き、魂が震える揺らぎの空間はすごく居心地が良くて、しばらく一緒に揺れていました。陶芸家の石井直人さん工藝デザイナーの石井すみ子さん現代美術家の前田征紀さんと、縄文に連なる自然と人の営みを思考している京都の人達です。

 

 

 

桑原 真知子/くわはら まちこ

広島県生、空見人。多摩美術大学絵画科油画課卒業。広島大学文学部考古学科研究生修了。草戸千軒町遺跡にて、遺物の漆椀の図柄の模写や土器の復元を行う。シナジェティクス研究所にてCG担当とモジュール作成などを経て、現在は魂を宙に通わせながら作家活動を行っている。