「思い」

郷右近富貴子

 


まりも祭りが終わって間も無く、
気の早い雪が降り積もり、
晩秋を飛びこえて、いきなり冬到来となった阿寒湖。

それから何日か過ぎ、残雪を残しつつ木の葉が舞い落ちる…
今まで見たことのない風景を目にしながらのこの頃。

 

第64回マリモ祭りも無事に終了し、9日の松明行進は、雨で中止となったので、その晩は、アイヌコタン奥にあるアイヌシアターにて、各地から集まったウタリの皆さんの踊り披露が行われた。

和気藹々と各地の踊りが披露される中、阿寒湖の踊り披露に差し掛かる頃、阿寒湖のコタン育ちで、今は漁師見習いとして働いている若人が現れ、「僕も踊りたい!」と。
彼は、漁を終えてその足でまりも祭りに駆けつけた。
シアターの男子控え室に置いてある衣装に着替えて、そこにあった弓を持ち、アイヌウタリの前へ出た。その時の彼のこみ上げる、本当に嬉しそうな表情…。と、会場に集まるウタリの拍手と歓声が会場を包んだ。

彼の祖母の唄う「弓の舞」に合わせて、彼は渾身の踊りを披露した。

今改めて、今年のまりも祭りの忘れられない最高の舞だった。

明けた翌日は、雲ひとつない秋晴れの元、まりもを送る儀式が行われた。平日だったけど、年に一度のアイヌのお祭りなので、子供たちは学校を休んでの参加。
子供達それぞれにアイヌ衣装を着せて、お店の前で記念写真をと思う母を尻目に、息子が中中現れない…。

この頃少し、反抗的になってきた息子。
写真に写ろうとしない息子に腹が立ち、「そんな態度なら、学校に行け‼︎」と、着ている着物を剥がして家に連れ帰った。

家に戻り、お互いに少し落ち着かせて、話をした。
「アイヌ衣装が嫌なら、お母さんは無理強いはしたくない。けど、衣装を着て参加する姿を残しておきたいだけ…」と言っているうちに、涙がボロボロ出てしまった。と、ふと見ると、息子も大粒の涙を流していた。
「別にアイヌの着物が嫌じゃないよ。俺だって、祭りに出たい…」と。

なんとなくホッとして、マリモ行列を追いかけてちょっと遅れての参加。

まりもを湖に送り終え、遊覧船に乗り込み、雄大な阿寒の山々を眺めながら、子供たちとお弁当をほうばっていたら…
「おい!カン(息子の名前)、その弁当後にして下に降りてこい‼」と、まりも祭りを支える中堅の兄さんが声をかけた。

もしかして!と思って息子の後をついて行くと、まりも祭りに欠かせない丸木舟の、先端に大きく立ててあるイナウ(御幣)を湖へ返す最後の儀式をまさに行うところだった。

「いいか、ちゃんと心を込めてオンカミ(お祈り)するんだぞ!」と、お兄さんが息子の後ろから声をかけ、手を掛け、ウココセと共に、イナウは湖へ返された。
息子もはにかみながら、小さくウココセをしていた…。

恥ずかしい様な、嬉しいような、ちょっと自信がついちゃったような…そんな息子の表情は、とても生き生きとしていて、祭りに参加できて、本当に良かったと、心から思いながら、湖にたゆたうイナウをしばらく眺めていた。

これから先、この「マリモ祭り」が
時代と共に形を変えながらも、続けて行くことができた時、
その時、私の子供たちはどこで何をしているんだろうか…

今、思春期を迎えつつある子供たち…。
そんな我が子たちと共に、あとどのくらい、一緒にアイヌ衣装を着ていられるんだろうか…と、小さくなった着物を畳みながら、しみじみと感じた、今年のまりも祭りでした。

 

 

 


郷右近 富貴子/ごううこん ふきこ

幼少よりアイヌ舞踊などを習いつつ阿寒湖アイヌコタンで育つ。3児の母。アイヌ料理屋ポロンノを家族で経営しつつ、阿寒観光汽船「アイヌ文化ギャラリー船」にて、アイヌ語り部として、ムックリやトンコリなどを演奏し、アイヌ文化を紹介している。姉・床絵美と’Kapiw&Apappo’というユニットで音楽活動を行っている。民芸喫茶ポロンノホームページ