春の力を元に

高橋 あい




四季というのはなんと正直なのだろうと、飛騨の山川の姿を眺めながら想います。3mも5mも、あるいはそれ以上積もっていた雪も、樹木の周りから雪が溶け、雪の下からは生命力溢れる色の植物が、雪が降る4ヶ月前と変わらぬ姿で佇んでいました。

全ては中心から春になっていく。地球も、樹木も、生物たちも。冬の間緊張していた私たちの身体も、四季の移ろいで身体の中心から春になっていくのでしょう。

 

 

「命とはなにか」、人間の生命に限らず、あらゆるものの命を見つめ続けてきた大重潤一郎監督の映画「久高オデッセイ」三部作の第三章がいよいよ完成までのカウントダウンの道のりの上にあります。

12年の歳月をかけ、久高島に通い、島人と島の自然と対話を続けてきました。そして、2004年の発病後、監督がもっとも多く対話をしていただのは、大重監督自身の命と身体だったのでないでしょうか。健康な身体では想像できない視床痛の痛みと10年以上もの歳月寄り添い、その自身の命と対話する形で島を見つめてみました。

久高島の風はもちろん、編集中に画面を通して観る久高島の風景は、大重監督の病を癒す薬でもありました。「久高島」を自分の命と反芻するように重ねる時間だったように念います。「久高オデッセイ」は大重監督の命そのものを映し、私たちへのメッセージとしてくれることでしょう。

 

大重監督は「身体の痛みと精神は別ものなのだ、身体の痛みは本当に辛い、けれど精神はピチピチなのだ」と言います。

冬から春へと季節は移ろい、大重監督も春のエナジーに命を任せ、最後の編集をしています。個人的には、身体の痛みを孕む大重監督の声を耳にするたびに、胸が痛み、「痛みが少しでも和らぎますように、そして命の限り一緒に居てほしい」と願ってやみません。

 

詳しくは、鎌田東二先生の記事の中にありますが、7月5日に完成上映会を行います。要予約の上映会+シンポジウムとなりますが、お誘い合わせの上是非お越し下さいませ。心からお待ちしております。

 

 

 

 

高橋 あい/たかはし あい

東京自由大学ユースメンバー。写真家。多摩美術大学情報デザイン学科卒業。東京芸術大学修士課程修了。沖縄大学地域研究所特別所員。ポーラ美術振興財団の助 成を受け、2012年9月から1年間、アメリカ合衆国・インディアナ大学にて写真作品制作と研究を行い、2013年10月に帰国。現在は飛騨古川を拠点と し、株式会社美ら地球に勤務。東京自由大学では、主に 「大重潤一郎監督連続上映会」の企画を行っている。また、このウェブマガジンの発案者である。ホームページ