旧暦新年のはじまり 慈悲の力と共に

高橋あい

 

 

1月12日、満月の真横を通ってアメリカに着き、1月28日の本日、新月を迎えました。2ヶ月半の滞在も、自分が掲げているプロジェクトと向き合いながらも、あっという間に過ぎてしまいそうです。

思い返せばこのEFGは、約4年前、「久高オデッセイ」制作ノートを、アメリカに居ながらもほぼ毎日大重監督とスカイプで会話をし、書き記すことから始りました。いまは、その監督もおらず、けれど、この数年に亡くなった方々の気配を自分の中に血肉として十分に感じながら続けています。

 

1月12日に羽田を飛び立った翌日、飛騨高山では豪雪となりました。これでもか、これでもか、という、深い雪の写真をインターネット上で見ながら、どうすることも出来ず、唯、大きな事故がないように祈るばかりでした。自然は、人間が思うことを遥かに越える力で語りかけます。地形も然り、天気も然り、いつも宮内勝典さんの文章で語られる「風景とは出来事だ」という言葉が反芻してきます。どんなに暗く辛い夜があっても、必ず太陽の光りがあり、コンクリートで覆われた地面の下には恵みである水が脈々と流れている。自分の呼吸と合わせて自然の出来事を想像すると、それは命の源から私たちへのギフトであると同時に、私たちの身体もまた自然であり切り離せない世界を実感します。生活=祈りが、今、最も見直すべきことなのでしょう。

アメリカ大陸上空から眺める夜明け
アメリカ大陸上空から眺める夜明け

 

今安居をしている曹洞宗三心寺(アメリカ合衆国インディアナ州)にて、4年前に受戒を受けました。その際に、奥村老師から頂いた法名は「慈正」でした。「あい(愛・本名はひらがな)」に対しての「慈」と、三心寺住職・奥村正博老師とその師匠・内山興正老師から「正」の字を頂きました。亡き岡野恵美子さんの娘さんのお名前が慈子(あつこ)さんだと知ったのも丁度その頃であり、飛騨高山で心的距離を近くしてお世話になっている仏師の方のお名前も慈眼さんであり、なにかと「慈」という字に次から次へと巡り会いました。「慈」という言葉を名前を頂いたことは、今時点の私にとって大きなギフトでありました。

数年前から繰り返し見ている映像があります。

ジョアン・ハリファックスさんの「慈悲、そして共感の真の意義について慈悲、そして共感の真の意義について」です。すでに6年も前の映像になりましたが、未だ新鮮なメッセージです。

https://www.ted.com/talks/joan_halifax

 

ダライ・ラマの一説に「愛と慈悲は無くてはならないものである。 それらは贅沢品ではなく、 それら無しに 人間は生きていくことが出来ないものなのだ。」と。 

まず慈悲というのは 苦しみの本質をしっかりととらえる 能力を必要としています。 力強く、その苦しみに耐える力と、私がその苦しみと 無関係ではないのだということに 気付く力です。 そして、 慈悲には敵対するものが存在するということです。それは、ただの憐みであったり 道徳上での憤りであったり、 恐れであったりします。  私たちの仕事は、 私たちの世界の精神に 染み込んでいる 恐怖という成虫の大元と、 対峙することです。

仏教には、 「強さと柔軟性が兼ね備えなさい」、という教えがあります。状況の真っただ中に自分を置くのには、 確固とした強さを必要とします。心の平静です。折れない心を持つには あるがままの世界を受け入れる 柔軟性も必要となってきます。(全体の一部抜粋。全映像約13分)

 

1月20日、アメリカ合衆国の大統領が、オバマ氏からトランプ氏に代わり、アメリカ、日本はじめ全世界には空恐ろしい情報が飛び交っていることは言わずもしれたことである。しかし、そんなときこそ、私たちは「慈悲」を持ってそのことと対峙するべきなのでしょう。

昨年10月27日に行われた五木寛之さん鼎談「『悲』の力~乱世を生きぬくために」の報告記事を書いて下さった三上敏視さんのFBに、五木さんの言葉が記されていました。

 

日本人にとっての悲しみの感覚には愛おしさも同居している。

 

その言葉から、日本人は、絶望の時にでも慈しみの感情を持ち合わせる精神性を潜在的に持っていて、いまこの時代に生きていくのかもしれない、そういう光りを感じました。

 

鼎談「『悲』の力~乱世を生きぬくために」が、朝日新聞WEBRONZAにて本日(1月28日)10時より3回に分けて公開されます。

 

朝日新聞社の言論サイト「WEBRONZA

http://webronza.asahi.com/

 

1回目朝日新聞WEBRONZA2017年1月28日

2回目朝日新聞WEBRONZA2017年1月30日

3回目朝日新聞WEBRONZA2017年2月1日

 

初回は無料、2回目3回目は有料になりますが、講座に参加された方もご出席出来なかった方も、ご覧頂けたら幸いです。

 

今年度の講座は、残すところ2月11日の講座「宗教ってなに? 講師:坂本大三郎」のみとなりました。来年度も、引き続きご愛顧賜りますよう、お願い申し上げます。

 

今回より寄稿をはじめてくださった、私の美大予備校時代の恩師・小笠原高志さんの制作映画「映像歳時記 鳥居をくぐり抜けて風」が、3月4日よりユジク阿佐ヶ谷にて再上映されます。国家神道以前から続く、日本人にとっての八百万の神は、神域は、南方熊楠が守りたかった日本人の精神性はなにか、とてもシンプルに、まるで聖域を通る風のように、大地のから伝わる温度のように、語りかけてくれます。是非この機会にお出掛け下さい。

https://saijikifilm.com/

 

また、このウェブマガジンでは文才を発揮して下さっている日本画家・彩さんの初個展が東京銀座にて予定されています。こちらもこの機会に是非お出掛け下さいませ。

絵画学科日本画専攻・高橋彩による卒業制作展
会期 2月28日(火)〜3月5日(日)
場所 藤屋画廊

 

 

全生命にとって、ひとつひとつの呼吸が素晴らしい息吹で溢れますように。

 

合掌

平成29年1月28日

 

 

 

高橋 あい/たかはし あい

写真家。多摩美術大学情報デザイン学科卒業。東京芸術大学修士課程修了。ポーラ美術振興財団の助成を受け、2012年9月から1年間、アメリカ合衆国・インディアナ大学にて写真作品制作と研究を行い、2013年10月に帰国。現在は飛騨高山を拠点としている。東京自由大学では、主に 「大重潤一郎監督連続上映会」の企画を行ってきた。また、このウェブマガジンの発案者である。ホームページ