精神構造の資本主義化の中にいて

高橋 あい

 

 

 

ずいぶん遠くへ来てしまった。

遠くに来たこの場所で、手と手を合わせ、深く静かな呼吸をする。

 

 

数ヶ月前から聞き取りの仕事をする最中、現代文明の中で失ったものの大きさを感じていた。加えて効率制を求められる日常に悩んでいることを、曹洞宗・龍昌寺(石川県輪島市)の村田和樹和尚さんに手紙を書いた。すると、すぐに返事が届いた。

「それ、あなただけのことではなく、今、世界全体がせわしいのだと思います。それは個の精神構造が資本主義化しているからなのでしょう。そんななか止まること(坐禅)やゆったりとした時の流れのなか、自分で営みを立てていくことが求められているのだと思います」

 

 

飛騨での仕事をはじめてから、もうすぐ二年になる。

引越した当初は、水がきれい、夜は静か、緑が豊富と良いことの発見ばかりだったものの、日常生活では都会化されていることも少なくない。資本主義化の流れの中で、失ってしまったものこともある。たとえ大都市・東京にいても、東京の中に縄文を感じることが出来るし、地方に身を置いても都会的な生活をし続けることも出来る。どこにいても自分次第なのだ。飛騨と東京を往復していても、場所性はあまり気にならず、接する「いのち」は、目に見える形が様々だが、エネルギーの可能性を教えてくれる。

村田和尚さんの手紙を読みながら、大重監督のメッセージと重なる。

 

 

映画「縄文」は、現代人から現代文明に汚染された部分’あく’を少しずつ取り除いていく作業であり、縄文の健やかさから現代を検証し、限りなく本質に近づく試みである。(中略) 「いのちを惑わす知識、経済活動、名誉、欲、地位…。その借り物をどこまで脱いで、シンプルになれるか。」地球、いのち中心の「健やかな生命観」により、物事の本質を見極めていくことが必要だ。

東京自由大学ニュースレター第一号・伊豆有加さん編集より

 

 

 

東京自由大学開設当初から関わっていた、大重潤一郎監督、岡野恵美子さん、横尾龍彦先生が今年相次いで亡くなり、その哀しみは深く私たちの中にあります。しかし、東京自由大学の先達が残してくれた宝物はとても暖かいものでもあり、私の背中を押してくれるものでした。ご冥福をお祈りしつつ、深く感謝の意を送りたいと思います。

東京自由大学は、来年の四月から自由が丘に拠点を移します。規模は小さくなりますが、「自由大学と言うこの小さなともしびを消さないで守り育てて頂きますよう祈ります。」という横尾先生の遺言はじめ、多くの人のいままでのご尽力を大切に次の世代で精進していく所存です。

 

引き続きどうぞ宜しくお願い致します。

 

        

 

高橋 あい/たかはし あい

東京自由大学セカンドステージメンバー。写真家。多摩美術大学情報デザイン学科卒業。東京芸術大学修士課程修了。沖縄大学地域研究所特別所員。ポーラ美術振興財団の助成を受け、2012年9月から1年間、アメリカ合衆国・インディアナ大学にて写真作品制作と研究を行い、2013年10月に帰国。現在は飛騨古川を拠点とし、株式会社美ら地球に勤務。東京自由大学では、主に 「大重潤一郎監督連続上映会」の企画を行っている。また、このウェブマガジンの発案者である。ホームページ