この街で暮らす

高橋 あい

 

 

3月半ばから生活の拠点を岐阜県飛騨高山に移しました。正確には古川町という高山市から15キロ程北上した場所に家と会社があります。

私が暮らす古川町は、町並みが国の重要伝統的建造物群保存地域に指定されているために近代的な建物がなく、小さな町を一歩出ると田んぼが広がり、囲むように山の嶺が繋がっています。

東京よりも一ヶ月も春が遅く、四月中旬に、梅・桃・桜・水仙・チューリップなど、春の花々が一斉に咲き、同時に各集落での祭りが休みなく続きました。人々の笑顔に伸びやかさがあり、冬眠から目覚めた動物たちの気配を感じ、飛び交う鳥たちの声も軽やかです。

 

けれど、この土地も日本の例外ではなく、過疎化が進みます。私の家の両隣は、お婆さん一人で暮らしています。それでも、若い人たちが活気を持って祭りに挑んでいること知れたことは、この街で暮らすことを決めた私には救いでした。毎年4月19日20日に行われる古川祭り(日本三大裸祭り)は、高山祭りと山車(この地域では屋台と呼ばれています)の形は同じものの、高山祭りの静かなお祭りに対し、夜中に「起こし太鼓」が行われ寒さの中、激しい動きを感じるものでした。

 

起こし太鼓20140419
起こし太鼓20140419
起こし太鼓主事の青龍臺
起こし太鼓主事の青龍臺

 

この土地の冬の厳しさをまだ知らずにおりますが、半年後には体験することでしょう。この春の息吹を十分に堪能し、冬の厳しさを乗り越えたいと今から覚悟の念を抱きます。

 

 

冬ごもり 春さり来れば 

飯乞ふと 草の庵を

立ち出でて 里に行いけば 

たまほこの 道のちまたに

子どもらが 今を春べと 

手鞠つく ひふみよいなむ

汝がつけば 吾はうたひ 

吾がつけば 汝はうたひ

つきて唄ひて 霞立つ 

永き春日を 暮らしつるかも

 

霞たつながき春日をこどもらと手まりつきつつこの日暮らし

こどもらと手まりつきつつこの里に遊ぶ春日はくれずともよし

 

良寛

 

 

この土地に来れた喜びは、ここは北陸地方には属さないものの、近い地域であることも一つの理由でした。永平寺や、良寛さんが過ごした越後地域は山を越えたところにあります。道元禅師や良寛さんの唄の節々から感じていた冬の厳しさの中に佇むことは、私にとって貴重な時間になるのだと思っています。

自然との付き合いを、身を以て感じる一年になりそうです。また、このページで触れていけたらと思っています。

 

東京自由大学では、新しい年度を向かえました。今年から新しく「世直し講座」(計10回)が始まりました。オウム真理教、阪神淡路大震災、神戸連続児童殺傷事件などをきっかけに立ち上がった当NPOが、15年の歳月の過程を振り返りながらこれからの生き方の模索を各講師をお迎えしながら共に考えます。詳しくは、鎌田東二理事長の記事をご覧くださいませ。

 

飛騨では、遠くの山の雪は溶け、里は田植えが始まろうとしています。春祭りは豊作を願う祭りでもありました。みなさまの時間が、豊かな時間になりますように。

 

 

 

高橋 あい/たかはし あい

東京自由大学ユースメンバー。写真家。多摩美術大学情報デザイン学科卒業。東京芸術大学修士課程修了。沖縄大学地域研究所特別所員。ポーラ美術振興財団の助 成を受け、2012年9月から1年間、アメリカ合衆国・インディアナ大学にて写真作品制作と研究を行い、2013年10月に帰国。現在は飛騨古川を拠点とし、株式会社美ら地球に勤務。東京自由大学では、主に 「大重潤一郎監督連続上映会」の企画を行っている。また、このウェブマガジンの発案者である。ホームページ